作・椎名銀次
第21話 分岐点(三)
さすがに勝負のあった八原町ではバツが悪かったので、電車で二駅隣りのオフィスビルが建ち並ぶ街、出玉町に行くことにした。就職情報誌で調べたいくつかの目ぼしい会社に、履歴書を持って面接を受けに行くのだ。
最初に行ったのは、印刷関係の会社だった。人事担当者の前で緊張して座っていると、その顔が履歴書と俺の風体を見比べるうちにしらけていくのが分かった。面倒臭そうに話す相手に居たたまれなくなり、
「も、もういいです。ごめんなさい」
と言って出てきてしまった。勉強ができるわけでもない。これと言った資格もない。それに、高校を卒業したばかりの4月に就職活動をしているヤツなど、どう考えても怪しいと思っているに違いない。滅入る気持ちを励まし、次の中古車販売会社へ向かった。
結局夕方までかかって6社回ったが、どこにも相手にされなかった。慣れているつもりだったが、人に期待されないのはやはり辛い。仕事に就けない怖さを感じながら、夕暮れの通りを歩いていた。大きなビルの前にさしかかった辺りで、不意に声をかけられた。
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