小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-]
作・椎名銀次

第24話 分岐点(六)
リリーから微笑みが消えていた。 「一つだけ言っておくわ。神谷と百回やっても勝てないわよ」 この時は、リリーが何を言っているのかよく分からなかった。 「百回やっても勝てないと言うことは、運じゃないってこと。つまり、実力ということよ。あなた、そうして自分の弱さを周りのせいにしてきたのね」 ぎくりとした。彼女に心の奥まで見透かされているような気がしたのだ。 「あなたに託すなんて、あの娘もお気の毒ね。まあ、あなたに賭ける事が、彼女の勝負だったんでしょうけど」 あの娘…、桜子だ。俺は動揺した。 「ちょっとは責任を感じているようね…。まあ、就職活動、頑張ってね」 リリーは踵を返し、歩き始めた。まだ血が昇った頭に、桜子の顔が浮かんできた。父親の工場を取り戻すため、俺に全てを託した桜子。負けた俺を責めもせず、泣いて詫びていた桜子。そんな彼女を顧みもせず、俺は自分だけが被害者だと思い込もうとしていた…。 気が付くと、繁華街は夜の装いを帯び始めていた。俺は、ネクタイを緩めると、遠ざかるリリーの後を追った。

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