小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-]
作・椎名銀次

第11話 初めての勝負(五)
三月二十二日・晴れのち曇り

「聞こえないのか?椎名に70だ!」
声の主である茶色い革ジャンの男を見て、店内の男たちは、「あれ乾(いぬい)じゃないか?」、「どうして、あいつがここに?」などとざわついている。
「おっ、おう、椎名70受けた…」
と胴元が狐につままれたように言うと、男達も「乾が大きく張るくらいだ。あの小僧、実は名のあるパチプロなんじゃねぇのか?」「そうだ!そうに違いねぇ!」と興奮し始めた。そして、「ハイエナの乾が負け目に張るはずがない、何か裏があるんだ!」と言う声をきっかけに、そこここから、「俺もこのガキに3つだ」、「こっちは椎名に7つ!」とにわかに俺に張る声が増えてきた。革ジャンの男・乾はその間不敵な笑みを口元に浮かべながら、ギラギラした目を車椅子の男・神谷に向けている。神谷の方は相変わらず目を閉じたまま動かない。赤いスーツの女・リリーは不愉快そうに眉をひそめている。店長は手短にルールの説明を終えると一際張りのある声で叫んだ。
「それでは両者席に着いて!」

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