小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-]
作・椎名銀次

第2話 卒業式(二)
三月二十日・雨上がり

はっとして振り返ると、背中合わせに置かれたベンチでうなだれている女生徒の姿が目に入った。一瞬ためらったが、声をかけてみた。
「あの・・・」
するとセーラー服を着た華奢な女はぴくりと肩を震わせ、ゆっくりと上体を起こしながら、こちらを向いた。
「椎名君・・・?卒業式の最中だよ。こんな所で何をしてるの?」
自分のことを棚に上げ、きょとんとしている彼女の名は桜子。同級生の小川桜子だ。三年生になって初めて同じクラスになったが、成績やスポーツが際立って得意な訳でもなく、クラブ活動とも無縁な彼女は、俺の中での印象が極端に薄い。ただ彼女に対して一つ印象的だったのは、いつも一時間目の授業が終わると早弁していたことくらいである。おさげ髪で痩身の彼女が、朝から弁当を食べている姿に、俺は微笑ましさよりも、奇妙さを感じたものだった。その彼女が「あっ、そうだ!」と言って一方的に続けた。
「ねぇ、椎名君。私の代わりにパチンコを打ってくれない?」

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