小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-] |
体育館からピアノの旋律にのって、仰げば尊しが聞こえてくる。朝まで降り続いた雨のせいで湿ったベンチに座りながら、俺は覆い被さるように枝を伸ばす桜を見上げていた。就職先が見つからないまま卒業式を迎え、何とも言いがたい不安と後悔に息苦しくなり、卒業式の最中に「気分が悪くなった」と言って、外へ出てきたのだ。
母には「申し訳ないな」と思う。三年前、どうしても高校へ進学したいと言う俺の話を聞き入れ、苦労して学費や寮費を捻出してくれた母。恐らくは自分に期待してくれているであろう母が落胆する姿と、無為に過ごした三年間を悔いる気持ちが交錯して、俺を苛むのだ。ふと視線を下ろすと、学生服のそでに張り付いた桜の花びらが目に留まった。濡れた花びらの鮮やかさが自分を責めているような気がして、思わず息を吸い込んだ。そして吐き出すようにつぶやいた。「これからどうしよう…」その時、背後から聞こえた女のつぶやきが俺のため息と重なった。
「ああ、どうしよう…」