作・椎名銀次
第26話 きっかけ(二)
この十日間、俺は打ち歩いていた。八原町の銀玉会館だけでなく、繁華街がある天釘町まで遠征をした。そしてその間、ずっと勝ち続けていた。
手持ちの金も増えた。母親に初任給の一部だと言って幾らかの金を送ったが、それでも手元には今まで持ったことがないほどの金が残っている。
遠征の帰り、八原商店街の外れにある薄汚い物置の前にやって来た。ここに桜子が父親と弟の3人で暮らしている。住んでいた工場を借金のカタに取られ、親戚の家の物置を借りているのだ。汚れた擦りガラスに弱々しい明かりが灯っている。桜子は中にいるんだろうか?…どんな気持ちで過ごしているんだろうか?…工場を取り戻すために桜子はパチンコ勝負に応じ、俺に代打ちを頼んだ。その期待は痛いほどだった。…桜子の期待に応えたかった。しかし俺は惨敗し、結果桜子は今も物置暮らしを続けている。桜子の人生を決める事に安請け合いしたことと、いまさらながらその責任の重圧感に吐き気を催した。堪らず、こみ上げて来たモノをそばの電柱に吐き戻した。
←前|戻る|次→
[0] 戻る