小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-]
作・椎名銀次

第15話 勝負師(三)
三度目の大当たりが終わり、俺は落ち着いた気持ちで盤面を見ていた。
神谷にはまだ一度も当たりがない。
ふとパチンコ台のガラスを見ると桜子が映っているのが目に入った。彼女は前髪を目の辺りで切り揃え、クセのない髪を肩にたらしている。
いつも伏し目がちな彼女は、クラスではあまり目立たない存在だった。自宅を兼ねた父親の工場を借金のカタに奪われ、母親が預金通帳を持って家を出てしまった話はクラスの友達から聞いていたが、その時はただ興味本位で聞いているだけだった。しかし、まさか自分がそのことに関わることになるとは…。俺は振り向き、桜子の顔を見上げた。台からリーチを告げる声が聞こえる。桜子は俺が唐突に振り向いたことに少し驚き顔を覗き込んできた。ほとんど意識したことがなかった桜子が今はとても健気でいとおしい。
俺が安心させるように頷くと、桜子も嬉しそうに頷き返してくれた。台の方へ向き直ると大当たりを示す曲が流れ、そのすぐ後に神谷にも最初の大当たりが来た。俺は四度目の大当たりに自分の勝利を意識し始めた。

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