作・椎名銀次
第30話 勝負の構造(二)
あれから俺はパーラー塚内に毎日通い、乾がパトロンを見つけてくるのを待ったが、乾はそれきり姿を見せなくなった。持っていた金を渡した今、俺はハイ無しに近い状態だった。一日中プレハブ造りのボロホールの長椅子に、何をするでもなく、ただ座っている。たまに数えるほどの台しかない店内を徘徊して時間をつぶしていた。そうしてこの店に通ううちに、店の客を何となく覚えていった。その中に、いつも長椅子そばの台に座っている緑色の服を着た中年男がいた。男はひどく貧相な風貌で、毎日開店から閉店まで同じ台に座って、わずかな玉をちびちびと打ちながら、落ちつきなくキョロキョロと周囲を見ていた。だから俺とも何度となく目が合った。ある日いつものように長椅子に座っていると、緑のおっさんは何かうかがうような顔で俺を見ていたが、やがて無理やり作った笑顔で話しかけてきた。
「おまえ、乾に金渡してたろ?めでてえ奴だな!帰ってくるワケねえだろ。それよりよ、まだ幾らか持ってるんだろう?なあ、俺と勝負しねえか?」
男はそう言うと薄気味悪く笑った。
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