小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-] |
生まれて初めて玉を借りた。五百円玉と引き換えにして作った玉は、あっという間に飲み込まれていった。あまりの呆気なさに目を瞬かせて暫くは天井を見上げていた。持ち金はあと二千円しかない。これが俺の全財産だ。母には、四月から勤めに出ると言ってあるので当然仕送りはない。今持っている金を失ったら…でも、つぎ込んだ五百円を取り返したい…先ほど打った感じでは、とても勝てそうな気がしない。だけど…もう千円だけやってみようか…?
新たに上皿に流し込んだ千円分の玉はボリューム感たっぷりで頼もしい。深呼吸の後、念を込めてハンドルを握った。しかし、上皿の玉は次々に打ち出され、見る見るうちに減っていく。後悔の念が徐々に込み上げてきた。液晶画面が霞んで見える。ふと、小川桜子の顔が目に浮かび、思わずハンドルから手が外れた。数瞬後、隣のおっさんの声で、我に返った。
「兄ちゃん!当たっとるぞ!」
景気のいい曲が流れ始めた。