作・椎名銀次
第35話 再勝負まで(三)
物置の中は外から見た以上に狭く暗い。使われていない自転車や釣竿、ストーブなどが押し込まれた中に、どうにか作った三畳ほどの空間が彼女たちの住まいだ。その三畳の間にちゃぶ台を挟んで桜子と向かい合った。出してもらったお茶を少し飲んで切り出した。
「あの工場なんだけど、もう一度勝負してもらえることになったんだ」
「えっ?」
「明日俺が勝ったら、工場を返してくれるんだ」
桜子の表情は暗い。工場が戻ると聞けば必ず喜んでくれると思っていた俺は、それに戸惑った。彼女は喜ぶどころか無表情なまま、「そう…」とだけ言い、下を向いてしまった。
「今度こそ勝つよ!俺あれからパチンコ修行をしてたんだ!今度こそ…」
俺の決意を込めた言葉に対して、桜子は冷たかった。
「もういいの工場のことは。私達のことはほっといて…」
俺はカッとなった。この勝負のためにどれ程苦労したと思っているんだ!
怒りに任せ、お茶を一気に飲み干し、桜子を睨みつけようとした。が、そこには涙をためた桜子の顔があった。
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