作・椎名銀次
第37話 再勝負の朝(二)
最近の日課通り、塚内町のおんぼろプレハブパチンコ屋に顔を出した。客が数名しかいない店内は、昼でも薄暗い。それは電気代をケチっていることだけが理由ではなく、ここが非合法な営業を行っている店だからだ。店内を見回したが乾の姿はなかった。先日俺とサシ勝負をした茂田と言うパチプロが近づいてきて、「あれ、今日は八原町で勝負じゃなかったのかい?」と冴えない顔を見せながら話しかけてきた。俺はあいまいに返事をすると、この店での俺の居場所である長椅子に座った。この二週間ほどの間、俺はここに座って時間をつぶしていた。ここから店の中の様子を何時間も眺めるのだ。ずっと見ているうちに、台の「顔色」が分かるようになった。調子のいい台。誰にも座ってもらえないどこか影のある台。勢いがある台。疲れている台。休んで気力が充実している台。存在感のない台…。それらをぼんやりと眺めるのが俺の日課だった。店中の台のエネルギーが高まったと思えるまで、そして打つべき台が見えてくるまで、ずっとこの長椅子に座っていたのだ。
今は店内を眺めつつ、小川桜子と、彼女への自分の気持ちを考えていた。
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