小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-]
作・椎名銀次

第33話 再勝負まで(一)
乾が決めてきた内容はこうだ。俺の百両だけでは、藤原(あのマシュマロ野郎だ)は桜子の工場を賭けた勝負に乗ってこない。それ以上の金額を用意できるパトロンが必要だ。そこで乾は、俺の百両を担保に数百両を出してくれるパトロンを見つけてきたらしい。そんな物好きが本当にいるのか怪しいが、そのパトロンは、桜子の工場と見合う金額を出してくれると言う。おそらく乾は、俺の武勇伝をでっち上げ、そのパトロンを騙したのだろう…。そんな俺の想像を察したのか、乾は「なんだその顔は?ハハッ!俺は騙しちゃいない。おまえが勝てば、全部本当になるんだ」 じゃあ負けたら―と言おうと思ったが、愚問なのでやめた。負ければこの前の勝負と同じ末路が待っているだけだ。それよりも心配なことがあった。勝った後、本当に桜子の工場が帰ってくるかどうかだ。普通に考えれば、工場はパトロンのものになるはずだ。 「張り手は了承済みだ。とにかく勝てばあのボロ工場はおまえのもんだ」 そう言うと乾は、面倒くさそうにタバコの煙を吐いた。勝負は三日後。 前回と同じ八原町の銀玉会館で行われる。

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