小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-]
作・椎名銀次

第13話 勝負師(一)
三月二十二日・晴れのち曇り

打ち始めて何分くらい経ったのだろうか?実際に勝負が始まるとまるで現実感がなく、対峙しているパチンコ台がとても遠くに感じられる。そのためかハンドルを持つ手が自分の手のような気がしない。玉は淡々と打ち出され、時々チャッカーに入り、盤面中央の図柄が流れていく。俺は開始前に説明されたルールを思い返した。出した玉の数ではなく、先に既定回数の大当りを引いた方が勝ちとなる。とても単純なルールだし、これならパチンコの腕もクソもない。運次第で俺でも勝てるかも知れない…。
打ちながら俺は一つ隔てた台で打っている神谷という男を横目で見た。ヤツは身じろぎせずハンドルに手を添えている。眠っているのか?と思ったその瞬間に「リーチ」という声が聞こえてきた。正面に向き直ると2つの図柄でダブルリーチがかかっている。背景の絵が大きく動いたかと思うと今まで観たことがない演出が始まった。店内がざわめく。
「ガキにプレミアが来たぞ!」

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