小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-]
作・椎名銀次

第3話 八原商店街
三月二十一日・晴れ

夕方、商店街を歩きながら桜子のことを思いだしていた。
彼女は父親が連帯保証人になったせいで家を差し押さえられていた。あの時の桜子の怯えたような、それでいて強い決意を秘めた眼差しが今でも忘れられない。その話の中で、彼女は聞き慣れない言葉を口にした。
「パチンコ勝負?」
俺はその言葉に反応して思わず聞き返した。言いながら、今までごく普通の同級生だと思っていた彼女がそういう言葉を発することに激しい違和感を覚えた。(桜子は社会の波にもまれてもまれている…)そう思うと、今まで安穏と高校生活を送ってきて、今でも宙ぶらりんな自分がひどく子供のように思えた。苦悩している彼女の横顔がどことなく大人びているように見えて、少し羨ましいような、妙な気持ちになった。俺は、いつの間にか前よりも真剣に話を聞くようになっていた。桜子の顔を覗き込み、もう一度聞き返した。
「パチンコ勝負って、何?」

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