小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-]
作・椎名銀次

第40話 洗礼(二)
俺は狭い路地裏で右手の指や背中を蹴られ続けた。 その最中俺は左手で後頭部をかばいながら「いつまで続くのか」と他人事のように考えていた。数分後男達は疲れたと見えて、息が上がり始めた。それでも交替しながら蹴り続けていたが、最後にはひねりのない捨て台詞を吐いて商店街の方へと去って行った。俺はしばらく地面に突っ伏していたが、やがてゆっくり身体を起こし、「よっこらせ」などと言いながら立ち上がった。背中や肩、脇腹が痛む。特に右手…。右手の指が焼けるように熱い。握りこもうとしても指に力が入らない。「まずいな」と思いながら服の汚れを払い、勝負会場である銀玉会館へ向かった。銀玉会館前の通りには前回の勝負のような人だかりはなかった。右手が少しドアに触れただけで激痛に顔が歪む。痛みに堪えて店内に入ると、さすがに店内には大勢の人がいた。カウンターの前に青いスーツの藤原が小柄な男と立っている。男は今田というパチプロらしい。小柄な今田は姿勢が悪く、一段と小さく見える。奴は俺を見つけると、ボサボサの頭髪を掻きつつ、ヤニで黄色い歯を見せて笑った。

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