小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-]
作・椎名銀次

第45話 工場奪還(一)
打ち出される玉、光を放つ盤面は、俺の視界には映らず、ただ黄・緑・橙色の光のパターンが頭の中で繰り返し広がる。身体は軽く、音も聞こえず、パチンコを打っているという感覚もない。突然肩に手をおかれハッとした。 「そこまで!勝者、椎名!」 立会人である店長の声が響いた。野次馬達はどよめく。藤原は苦虫を噛み潰すような表情で、自分の打ちっ子である今田に嫌味を言った。 「あんな駆け出しに負けるとは!手配するパチプロを誤ったかっ!」 負けた今田は八つ当たりするように周囲の野次馬達を睨みつけながら店から出て行った。店の外で弟と共に勝負の行方を見守っていた桜子は何が起きたのか分からないのか立ち尽くしている。俺は立会人に向かって確認した。 「これで、小川の工場は返してもらえるんだろうな!」 「もちろんです。これであの工場はあなたのものです」 と立会人である店長が言う。藤原も吐き捨てるように言った。 「あの方があなたのパトロンでは、踏み倒すこともできないでしょう」 それを聞いて俺は店の外へ出た。

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