小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-]
作・椎名銀次

第9話 初めての勝負(三)
三月二十二日・晴れのち曇り

「神谷が来たぞ!」と言う声で店内は騒然となった。入口の近くの人だかりが左右に割れ、その間から真っ赤なスーツを着た女の姿が…。(えっ、神谷って女なのか?)と思っていると群集を抜けてきた女が車椅子を押しているのが見えた。女が近くまでくると、車椅子に座っているのが銀髪痩身の男であることがわかった。男は眠っているのか?目を閉じたままだ。さっきの青い背広を着た色白マシュマロ野郎が車椅子の男にもみ手をして挨拶をした。
「先生、本日はこんなむさ苦しい場所までご足労いただいて恐縮です。リリーさんも相変わらずお美しい」
リリーと呼ばれた赤いスーツの女はマシュマロ野郎の世辞には応じず、単刀直入に訊ねた。
「藤原さん、神谷の相手は?」
マシュマロ野郎は俺の方を指して、
「はい、この男が相手のパチプロでございます」
女は冷笑を浮かべて言った。
「ふ-ん、こんな坊やが神谷の相手なの?」

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