小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-] |
桜子からは、朝の九時半に銀玉会館に来てくれと言われていたが、落ち着かなくて、結局九時十分すぎに店の前に着いた。入口の前に人だかりができている。「本当に神谷が来てるのか?」「中に入れないのかよ」「相手のパチプロはどんなヤツだ?」と人々が興奮気味に話している。勝負の相手とは俺の事のようだが、こんな大事になっているとは…。人垣に強引に分け入り、ガラス越しに中をのぞいた。店内にも大勢の人がいる。その間から心細そうにうつむいている桜子の姿が見えた。桜子は大人達に囲まれてとても小さく、はかなげに見える。俺が衝動的にドアを押すと、桜子がこちらに気づき、ほっとした表情で手を振った。
「椎名君!こっちだよ」
桜子の目線を追った人々が一斉に俺の方を向き、口々に勝手なことを言い出した。「こいつがパチプロ?」
「まだガキじゃないか!?」
俺は顔の強張りを感じながら桜子の立っている方へと平静を装い、近づいていった。