作・椎名銀次
第48話 黄昏の灯台(二)
塚内波止場の灯台前で、陽が暮れるまで抱き合っていた桜子と俺。俺と桜子は何度も激しく唇を重ね合った。
どれくらい時間が経ったのだろうか。辺りはすっかり夜の装いを帯びている。俺が桜子をそっと引き離すと、彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。俺はもう一度強く桜子を抱きしめた。
「椎名君、ありがとう…」
今さらのように桜子が言った。そして、二人で笑った。海は暮れた空を映して底知れない闇を成し、大きな波音を立てている。北の方にはオフィス街や繁華街の明かりが見えた。
「椎名君…、もうパチンコ勝負をしなくていいんだよね。もう怖い思いをしなくていいんだよね?」嬉しそうな桜子をよそに俺は勝負のことを考えていた。緊張感、高揚感、達成感…そして自分の存在感が確かにそこにはあった!
俺はこの時パチンコ勝負の世界に身をおく決意をしていた。
「それじゃ、私帰るわね。おやすみ」
と言うと桜子は照れくさそうに笑い、小走りに去って行った。彼女の後姿に向かって俺が呟いた決意は波の音にかき消され、桜子には届かなかった。
第ニ章終わり
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