作・椎名銀次
第25話 きっかけ(一)
俺は八原町の銀玉会館でハンドルを握っていた。台を睨みつけ、ひたすら玉を打っていた。そうしながら、数日前にリリーを追いかけて交したあの会話を思い出していた。
「お、教えてくれ!どうして、神谷と百回戦っても勝てないんだ?俺に何が欠けてるって言うんだっ!」
「あら、それを聞いてどうするの?あなたパチプロ辞めるんでしょう?」
「うるさい!いいから教えろッ!」
「まあ、怖いわね。フフッ。いいわ、教えてあげる。それはあなたが…」
◇◇◇
思い出すたび、悔しくてハンドルを握る手に力がこもる。(必ず見返してやる!)それだけじゃない、俺のせいで住む家を失った桜子のために、何が何でも勝つんだ《パチンコ》で!―気づくと俺は、この前俺がボロ負けした勝負を見ていた客達に囲まれていた。やがて何か騒ぎ始めたが、一睨みすると近寄って来なくなった。この日俺は、リリーから教えてもらった《自分に足りないもの》と、桜子の工場を取り返す方法を何度も呟きながら、店員に止められるまでパチンコを打ち続けた。
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