小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-]
作・椎名銀次

第46話 工場奪還(二)
店から出ると、茫然としている桜子に「工場を取り戻せたよ」と声をかけた。桜子は両手で顔を抑えたまま動かない。隣にいた弟は喜びを爆発させ、桜子と俺の手を引き、走り始めた。 桜子の弟に手を引かれ、取り戻した工場まで一気に走らされた。 俺は勝負中感じなくなっていた指の痛みがぶりかえし、しかめっ面のまま走った。桜子と弟についで工場に入ると、外から見ていた以上に質素な工場と奥に四畳半程度の畳敷きの「住い」があった。少しして、工場奪還の知らせを聞いた桜子の父親が帰ってきた。 「工場が…わしの工場が…返ってきた。これでまた自動車修理ができる」 父親は感極まっていた。その姿を見る桜子も泣いていた。弟は奥の座敷に上がり嬉しそうに大の字になっていた。俺は居辛くなり外に出た。そのまま立 ち去ろうとすると、少し遅れてドアが開いた。中から桜子が出てきた。 「…椎名君、ありがとう」 俺は頷いて立ち去ろうとすると、 「あの…ちゃんとお礼を言いたいから、灯台の所まで来てくれない?」 と言い、俺の返事を待たずに小走りで波止場の方へ駆けて行った。

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