小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-]
作・椎名銀次

第22話 分岐点(四)
声の主は高校の同級生、吉川だった。
スーツに七三の髪型をしていて最初は目を疑った。彼は卒業後、商事会社に勤めていた。「就職したけど、大変でさあ―」言いながら吉川は嬉しそうに仕事の話をした。俺にはそれが、遠い世界の話のように聞こえた。
(卒業して吉川は「社会人」になった。しかし俺は、何も変わっていない…)
吉川と別れた後、俺は何かにムシャクシャしていた。気づくと、繁華街にある小さな橋の上にいた。ビルの谷間に落ちる夕日がひどく眩しかった。川面を覗き込むと、汚れた川に自分の顔が揺れていた。(やっぱり俺は、中途半端だ…)ひどく惨めだった。「真面目に働きたい」それだけなのに、こんな気持ちになるなんて…!これならパチンコ勝負の方がまだマシじゃないか?少なくとも、勝っている間は皆俺に注目してくれた…。はっと我に返り、思わず傍のゴミ箱を蹴飛ばした。
「俺は、あんな腐った奴らにしか相手にされないって言うのかッ!」
通行人の視線が冷ややかだった。その時、若い女の声が聞こえた。
「あら?どこかで見た顔ね?」

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