小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-]
作・椎名銀次

第27話 きっかけ(三)
塚内町に『パーラー塚内』という名のパチンコ店があると聞いて来たのだが、それらしい建物が見つからない。塚内町は、この辺りでは貧しい人々が住んでいる地域とされ、俺もほとんど立ち入ったことがない。鉄道が縦断している八原川河口の中洲に、工場や飲食店、そして小屋のような建物が幾つか集まっただけの小さな町だ。ちなみに勝負のカタに取られてしまった桜子の工場も、この塚内町にある。その工場の脇を通って、舗装されていない道を奥へと歩いて行った。町の東端―高架下の飲食店前まで来たが、パチンコ店は見つからない。今度は町の反対側、海の方へ歩き始めた。だが、灯台が見える波止場まで来ても、パチンコ店など何処にもない。仕方なく引き返そうとした時、倉庫裏の簡易便所から、パチンコ店の店員らしい服装の女が出てきた。女は俺の方を少し気にしながら、倉庫の向かいのプレハブに入って行った。プレハブの扉に近づいてみると、汚れた看板に『パーラー塚内』と下手な字で書き殴ってある。(これがパチンコ屋だって?)呆気にとられながらも、ひと呼吸おいて扉を開けてみた。

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