小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-]
作・椎名銀次

第31話 野良試合(一)
プレハブパチンコ屋パーラー塚内で乾を待っている間に、俺は地グマ(同じ店に巣食っているパチプロ)に勝負をふっかけられた。神谷との勝負のような大掛かりなものではなく、パチプロ同士が身銭を賭け合うものだ。天釘町で打っていた時に何度か目撃したことがある。その時のやりとりを思い出しながら俺は言った。 「いいだろう。それで幾ら・・・・見せればいいんだ?」 髪の薄い緑の服の男は、欠けた前歯を見せてニヤケながら、皺くちゃの札を2枚見せた。俺はポケットから同じように2枚の札を見せた。 「ヘヘッ、それじゃ始めようか」 と男が言った時、俺はふと妙な事を思いついた。 「いや、俺が勝ったらその金は要らない。その代わり…」 男は俺の出した条件を聞いて明らかに怒気を見せたが、下手な芝居で平静を装いながら、 「いいだろう。若造、おまえ俺に勝てると思ってるみてえだが、勝負の厳しさってもんを教えてやるぜ」 言いながら、また欠けた歯を見せた。

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