小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-]
作・椎名銀次

第43話 追い上げ(一)
今田は快調に確変を継続させていたが、俺は動揺することなく、ハンドルを握る手に力を込めていた。壊された右手の指は不思議と痛みを感じない。俺がパチンコを打ち続けて一番感じたのは、勝負は集中力を切らした方が負けと言うことだ。勝負において、途中過程で生まれる差そのものには直接的な意味がなく、それらが作り出す状況によって戦意を折られることで局面が傾くのだ。さらに言うと戦意とは高い集中力で支えられるものだ。だから現状に対して満たされていても、不満があっても勝負への集中力は削がれる。どこまでも動揺しない心を維持し純粋に勝つことだけに集中する、これに尽きる。今田は今の調子が続けば必ず油断するはずだ。こちらが今田以上に集中力を欠いてしまえば勝ち目はない。俺は信頼度が高いリ-チが外れても集中力を切らさないように努めた。 今田の確変は七回目で途切れた。奴の時短終了と入れ替わりに俺に当りが来ると、今田は何やらぼやき始めた。奴はその後、立て続けに信頼度の高いリ-チを外し、「けっ、ついてない」とぼやき声の音量を上げていった。そして俺には怒涛の大波が押し寄せた。

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