作・椎名銀次
第38話 再勝負の朝(三)
桜子は俺に再勝負をやめてくれと言った。
しかし、俺が勝利する以外に彼女達が工場を取り戻す手段はない。
桜子…。同じクラスだった頃は気に留めたことがなかった。
それがパチンコ勝負を頼まれたのをきっかけに今の付き合いが始まった。
彼女と話をしたり、彼女のことを考える時、俺はイライラしたり、煩わしく感じることがある。その反面、「ほっておけない、自分が護らなければ…」とも思う。いつも飾り気のないお下げ髪で、とびきり美人という訳でもない。どこか薄幸の空気をまとい、人並みの喜びさえ訪れないような、柔らかな絶望感を帯びている。俺はそんな彼女に同類意識の様なものを感じているのだろうか?そうして思考が職にも就けず、先行きの見通しが立たない自分自身のことに至ると、「勝負が終わったら、パチンコはやめよう!明日から本腰を入れて仕事を探そう」そう思い、反射的に立ち上がった。桜子のことは一旦胸に収め、薄暗い店を出た。外は一層まぶしい。見上げると春の空は暖かく澄んでいた。俺はとにかく悔いが残らないよう、最後のパチンコ、最後の勝負のため、銀玉会館に向けて歩き始めた。
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