小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-]
作・椎名銀次

第18話 後始末(三)
仰向けのまま身構える俺を、乾はぎらぎらした眼で見下ろしつつ言った。
「もう少しやれると思ったんだがな。ずいぶん無様な負けっぷりだな?」
乾の口元がニヤついているように見えた。身構えていた身体の奥がフッと熱くなり、思わず言い返した。
「途中まで勝ってたじゃないか!ついてなかっただけだろっ!」
「ハハッ!めでたいヤツだな!まあいいだろう。もう会うこともないだろうよ」
そう言うと乾は飄々とした足取りで通りへ引き返して行った。路地の入り口で少し右手を上げ、「じゃあな」と言って姿を消した。蹴られずにはすんだが、逆にすっきりしなかった。
痣だらけの体をどうにか起こすと、通りからこちらを見て立ち尽くしている桜子の姿が目に入った。桜子は路上に座り込んでいる俺に、恐る恐る近づいてきた。
「………………」
桜子は何も言わない。俺も何も言えないでいると、彼女は突然両手で顔を覆い、その場に泣き崩れた。

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