作・椎名銀次
第19話 分岐点(一)
アパートの天井板には、見慣れた幾つものシミが浮いている。とにかく疲れていた。布団に潜り込んでから何度も寝返りを打ったが、どうにも目が冴て眠れず、ただぼうっと薄汚れた天井を見上げていた。見上げていると、また三日前のパチンコ勝負の後の出来事が頭に蘇ってきた。
俺は、そのあまりに無様な負け方に腹を立てた男達に袋叩きに遭い、そのままゴミのように路上に打ち捨てられていた。桜子は泣き崩れていた。その時は、(父親の工場が取り戻せなかったから…)と思っていた。しかし彼女は、意外な言葉を発した。
「ごめんなさい…私のせいでこんなことに…」
言いながら彼女は嗚咽した。俺は工場を取り戻すことができなかった申し訳なさと、惨めな姿をしている格好悪さから、声もかけずにその場から立ち去った。節々が痛む体を引きずりながらアパートに戻り、布団に潜り込んだ。あれから三日間。何度も彼女の姿、声が俺を苛んでいた。そして、思考がパチンコ勝負に至ると、やり場のない怒りに身体がカッと熱くなった。
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